鳥巻メモ

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写実的


文章の好みは、人それぞれだろう。


僕のばあい、写実的な文章が好きである。
概念的なことでも、ものを、つかむような書き方、
たとえば、鴎外の文章は、いいなぁと思う。


逆に、自然主義あるいは私小説的な文章は、
どうも、苦手である。


ところで、連休を利用して、
正岡子規の随筆集を味読した。
一部分を抜粋し、備忘録としておこう。



写生という事は、
画を画くにも、記事文を書く上にも極めて必要なもので、


この手段によらなくては
画も記事文も全く出来ないといふてもよい位である。(中略)



写生といふ事を浅薄な事として排斥するのであるが、
その実、理想の方がよほど浅薄であって、
とても写生の趣味に変化多きには及ばぬ事である。


理想の作が必ず悪いといふわけではないが、
普通に理想として顕れる作には、悪いのが多いといふのが事実である。


理想といふ事は人間の考を表すのであるから、
その人間が非常な奇才でない以上は、
到底類似と陳腐を免れぬやうになるのは必然である。(中略)


それに反して、写生といふ事は、
天然を写すのであるから、天然の趣味が変化して居るだけそれだけ、
写生文写生画の趣味も変化し得るのである。(中略)


理想といふやつは一呼吸に屋根の上に飛び上がろうとして
かへつて池の中に落ち込むやうな事が多い。


写生は平淡である代わりに、さる仕損ひはないのである。
(『病牀六尺』P76〜77、行替え:とりまき)