「思想のアンソロジー」は、吉本隆明ご本人が
あとがきでお書きになっているように、
古典の中から「自己の執着してきた箇所を抽出し、
自分で自由な公正な註を付けた」著書である。
2つ抜粋し、書き留めておこう。
わが心に日ごろおもしろしと思ひ得たらむ詩にてもまた歌にても心置きて、 これを力にてよむべし。初心の程はあながちに案ずるまじきにて候。さよ うに歌はただ案ずべき事とのみ思ひて間断るなく案じ候へば、性も惚、却 りて退く心の出でき候に候。「口馴れむためには早らかによみ習ひ侍るべ し。さてまた時々しめやかに案じてよめ」と亡父もいさめ申し候ひし。 (毎月抄/藤原定家) |
さてそはいかなる趣なる物にて、何のためによむものぞといふに、大かた 物がたりは、世の中に有りとある、よき事あしき事、めづらしきことをか しきこと、おもしろき事あわれなる事などのさまざまを、書あらはして、 そのさまを、絵にもかきまじへなどして、つれづれなるほどの、もてあそ びし、又は心のむすばばれて、物おもはしきをりなどの、なぐさめにもし、 世の中のありようをも心得て、もののあわれもしるものなり。かくていづ れの物語も、男女のなからひ事を、むねとおほく書たるは、よよの歌の集 共にも、恋の歌の多きと、同じことわりにて、人の情のふかくかかること、 恋にまさるはなければなり。(源氏物語玉の小櫛/本居宣長) |